さよなら、センセイ
翌日。

雪の降りしきる中、田舎には不似合いな外車が若月家の前に止まっていた。

そして、昔ながらの木造の平屋の囲炉裏の前に、これまた不似合いな丹下家の三人がいた。

「私が、恵の父親で武二(たけじ)、こっちが母親のイチ子です」

ムリしているが、やはり訛りながら父が言う。恵は黙って小さく頭を下げた。


「私は丹下久典、こちらが妻の眞佐子です。
はじめまして。
突然の訪問、申し訳ございません。
息子の広宗が、恵さんに大変お世話になっております」

「どうもご丁寧にありがとうございます。
わたしらは、ご覧の通り田舎の農家で、大したモンはありゃしませんが、ゆっくりしたって下さい」

イチ子が早速お酒を用意する。

「わしの兄貴が、酒蔵をやっておりまして、酒だけは自信があるんです。
お父さん、酒は?」

「それは嬉しいですね。大好きなんです」

「広宗さんも」

武二が何も知らずにヒロにも酒をすすめる。

「いえ、自分は…」

「まぁ、そう言わんと、飲んでみんさい」

「でも、飲めないので。すみません」

ヒロが断ると、武二は渋々あきらめる。
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