お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「ロザリー嬢。男というものはね、気になる女性に情けないところは見せたくないものなんだよ。君の前で、彼らの懇願を一掃することはできないだろう。ザックに直接頼んでも断られるだろうが、君を間に挟めば断らない。父上は僕の手紙の報告でそう判断したんだろう」
「ケネス、お前のせいか」
ザックはすごく嫌そうに顔をしかめる。
ロザリーは一歩遅れて、彼の気になる女性として自分が選ばれていることに気づき、顔を真っ赤にした。
「……分かったよ。話を聞こう。レイモンド、悪いが、空き部屋を一つ貸してくれないか。料金は払う」
「構いませんよ。ロザリー、案内してやって」
「はい!」
このふたりが、少なくともザックにとって敵ではないと分かったので、ロザリーは一気に気が楽になった。
足取りも軽く階段を上り、「こちらですよー!」とふにゃりと笑う。それをふたりは頬を緩めながら見上げた。
「……なんか、和みますね。こう、ふわふわとしていて」
「だよな。まるで妖精のようなお嬢さんだ」
ボソボソと言い合うのはスティーブとアダム。立場上、先に歩いていたザックは耳ざとくそれをキャッチし、ワザと階段の途中で立ち止まった。
すぐに止まれないスティーブは、ザックにぶつかり、「も、申し訳ございませんっ」と頭を下げ、そのために突き出たお尻が、彼の後ろにいたアダムを押し倒す。
「うわっ」
階段から転げ落ちる状態になったアダムは、したたかに腰を打ち付けた。
「大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄ってくるチェルシー。アダムは顔をしかめたままだが、ザックは素知らぬ顔で言う。
「ああ、大丈夫。こいつらは鍛えているから」
「やれやれ、君ちょっと心が狭すぎじゃないかい?」
呆れたように助けに入るのはケネスである。ロザリーだけが状況を把握しきれずに「何事ですか?」と小首をかしげた。