お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
(……いいにおい)
さすがは王家主催の夜会。でてくる食事も豪華である。ひとり分ずつカットされたローストビーフを皿に取り、もぐもぐと食べ始めた。
ひとりになったロザリーは、心もとない気分で、踊る人々を眺めていた。
無意識にザックの姿を探してしまう。
彼は、グラスを片手にイートン伯爵と歓談しながら、別の集団の中に入っていくところだった。
その中に、品の良さそうな老夫婦と、四十代くらいの小太りの男性がいる。イートン伯爵が老夫婦のほうと主に会話し、ザックは小太りの男性の方になにやら熱心に訪ねていた。
(誰だろう。それにご夫婦の奥様の方……誰かに似ているような)
やがて、イートン伯爵とともにその夫婦が近づいてくるので、ロザリーは心臓がどきどきしてきた。
「オルコット夫人、彼女がロザリンド・ルイス男爵令嬢です。縁あって私の屋敷で暮らしているんですよ」
「まあ、可愛らしいお嬢さんね」
「初めまして。ロザリンド・ルイスと申します」
慌てて礼をしたが、彼らの紹介の中に聞き覚えのある名前を聞いて、ロザリーは内心驚いている。
(オルコット……って)
「このドレスも素敵ね。うちの孫がデビューするときも、こんな感じでレースをあしらったのがいいわ」
夫人はにっこりと微笑んだ。その笑顔にどことなく懐かしさを感じる。
まさか……と思いながら、ロザリーは重ねて質問を投げかけた。