お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「ここでの仕事は臨時ですし……、嘘はつけませんよ。【切り株亭】の料理人であることは俺の誇りですからね」
「変なところがまっすぐだから、君はいつも面倒をしょい込むんだと思うけどね」
ケネスは乾いた笑いを浮かべつつ、「まあ、レイモンドの料理を食べもしないで否定する輩には少しお灸をすえないといけないね」とこぼす。
その声に黒いものを感じたのは気のせいであってほしいとロザリーは思う。
「まあ、俺の方でも少し動いてみるよ。昨日、ザックもウィストン伯爵と話していたから、なにか知っているかもしれないな。今度会ったら聞いてみるよ。敵の情報を知るのは大事なことだ」
「お願いします、ケネス様」
かしこまるレイモンドに、「お礼はデザートでいいよ。今日はシフォンケーキが食べたい気分なんだ」
とさりげなくおねだりをする。
「さて、ロザリー。作法も大方身についたことだし、今日からは俺とお勉強だよ」
「ケネス様とですか?」
「そう。君が毒見役をこなすために必要なことだよ。先生をお呼びしている」
連れてこられたのは、広めの部屋だった。
テーブルがふたつ並べられ、太い本が何冊も積み重ねられ、鉱物や植物もいくつか置かれていた。
「これはこれは。可愛らしいお嬢さんですな」
「先生、お待たせいたしました。この子がロザリーです」
「ロザリンド・ルイスと申します。……ええと」
「ロザリー、こちらはディラン先生。毒物に関する研究をなさっている」
「毒……ですか?」
ディランは、優しい目をしたおじいちゃん先生だ。白いひげに丸メガネがよく似合っている。
目を見開いているロザリーににっこり笑って見せた。