お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「そう。お嬢さんは毒にはどんなものがあると思う?」
「毒って……薬みたいなものだと思っていました」
「そうだね。薬も飲みすぎれば毒となる。お嬢さんはなかなか目の付け所がいい」
ディラン先生は一冊の本をパラパラとめくり、ロザリーに見せてくれた。
「例えばこれ、アサガオの種だが下剤としても使われていたことがある。だが非常に効き目が良くてね、今は危険物だから食べないようにと言われているものだ」
「そうなんですね」
「毒と薬は紙一重だ。ゆえに、毒を作り出すのは案外と簡単なことなんだよ。薬だという名目で用意されているものだって、用法を変えれば毒になりうるんだ」
なんだか、ものすごく怖いことを言われた気がする。
「ではつぎは、自然界に毒として存在するものがどのくらいあるか考えてみよう」
「植物には毒性のあるものもありますよね」
「そうだね。だがそれだけじゃない。例えば生き物も毒を持っている。ハチや蛇などの毒の話は聞いたことがあるかな?」
「あ、はい!」
「そのほかに鉱物にも毒はあるんだ。例えばこの硫砒鉄鉱。これそのものは無害だが、加熱すると猛毒が出来上がる」
金属っぽい光沢がところどころにあるけれど、基本、ただの岩に見えるそれが猛毒になるという。
「怖いですね」
「君には、ある程度の知識を、その植物や鉱物が発する匂いを覚えてほしいんだ。一応毒見役となるからには必要な知識だからね」
「え……もしかしてこれ、全部覚えろってことですか?」
ディラン先生の持ってきた書物は、とても一日で読み切れる量ではない。
「飽きないように俺もお付き合いするよ。さあ、頑張ろう、ロザリー!」
「う……は、はい」
一難去ってまた一難。せっかく社交界デビューが終わったというのに、まだまだ覚えることはたくさんあるようだ。