お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
 今日の切り株亭の客は大部屋に五人、個室に四組だ。ロザリーは自分の部屋の隣で、もう片側の隣も空いている部屋に一行を案内した。
ザックにまつわる話となれば、王家の機密事項もあるだろう。壁の薄い宿の部屋で、立ち聞きされては困る。
狭い個室にはベッドがふたつ。ザックとケネスがそれぞれ腰掛け、スティーブとアダムは向かい合うように立った。

「で、君たちが来るということは、バーナード侯爵の用件だよな? なにかあったのか?」

ザックが鋭い視線をふたりに向ける。
思いもかけずすぐにザックが話し出してしまったので、ロザリーは慌てて部屋を出ようとしたが、ケネスがそっと手を引いて止めた。

「ケネス様。私が聞いてちゃいけない話じゃないんですか?」

「君がいなくなると、途端にザックが大人げなくごねだすからここにいてくれた方がいいんだ」

ケネスは片目をつぶって見せる。
ロザリーは困ってしまった。自分がいてもいなくても、そこは関係ないのではないかと思う。

ふたりの会話を横目に、スティーブとアダムはザックの質問に答えた。

「お察しのとおりです。バーナード侯爵はぜひアイザック様に王都にお戻りになられるようおっしゃっております。最近、王都では小さなデモがあちこちで起こっております。市場に出回る作物も質が悪く、全体的に物価が上がっているのです。市民の生活はかなりひっ迫しています」

穏やかではない内容に、ザックの眉根が寄る。
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