お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「アイザック?」
カイラは食い入るように息子を見ている。
カイラが心を病むようになってから、ふたりは徐々に疎遠になっていった。ザックは病んでいく母親を見ているのがつらかったし、カイラも痛ましい目を向けられることがつらかったから。
定期的なご機嫌伺いには来るが、当り障りのない会話とするだけだ。
なのに今日のアイザックは出だしの行動からいつもと違う。
「どうしたの。アイザック」
カイラはもう一度、確認するように問いかける。するとザックは、いつもより優しい笑顔を母親に見せたのだ。信頼にあふれたそれは、カイラに幼少期のザックを思い出させる。
「母上は、優しい気持ちは失っていないのですね。ありがとうございます。彼女を守ろうとしてくれて」
ザックの視線がロザリーに移り、カイラもその視線をたどった。
「彼女って……この子のこと?」
「あのあのあの、ザ、ザック様、落ち着いて……。とにかく顔上げてください!」
慌てるのはロザリーだ。それに、吹き出したのがケネスである。
「あははは、申し訳ありません。ちょっと我慢しきれなかった。……カイラ様もアイザックもいったん座ったらいかがですか。ザック、少し落ち着いて話さないと、母君が混乱しておられるよ」
「あ、ああ」
ケネスが椅子を勧めたので、全員が席につく形となる。
カイラは今も訳が分からないと言った風にザックをチラチラ見ている。
「母上、内密の話なんです。公言しないと約束していだだけますか?」
「え? ええ……」
「俺は、彼女が。……ロザリーが好きなんですよ」
「ふわっ、ザック様?」
臆面もなくそんなことを言い出したザックにロザリーの方が真っ赤になる。