お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「どうしてそうなった? 一年前まではそんなことなかったよな。父上は何をしているんだ? 調査委員会は?」

「国王様は最近すっかり国政への意欲を失っておられます。第一王子バイロン様のご病気が心配なのでしょう。政治はすっかり議会任せ。今はアンスバッハ侯爵が中心となって進めておられます」

「アンスバッハ侯爵か。第一夫人側だな」

アンスバッハ侯爵家は、建国当初からある由緒正しい家柄で、現在の当主は第一夫人の兄である。ザックにはつらく当たってきた人物でもあり、当然彼のことはザックは好きではない。ザックは学問も武芸も政治もそれなりにそつなくこなしたが、残念ながら聖人君子ではないのだ。

アンスバッハ侯爵が持つ権力に群がる貴族議員は多くいる。しかし、ザックが知っている一年前の時点で、アンスバッハ侯爵派は四十五%、バーナード侯爵派が四十%。そして中立派が十五%くらいの割合だったはずだ。
ちなみに、イートン伯爵もバーナード侯爵派だ。

「しかし、彼らが独断で政治を行えないくらいの議員数はバーナード侯爵派も持っているだろう」

「それが、最近中立派の一部がアンスバッハ侯爵派に流れておりまして。雪玉と同じようなものでして、ひとりが転がっていくと追従していくようです」

「で、劣勢となったバーナード侯爵が俺を呼んだということか?」

「アイザック様はまだお若く、お母上が平民階級ということもあって民衆人気があります。あなたがバーナード侯爵を支持してくださるだけで、若手の議員の多くはこちらに動きます」
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