お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「はっきり言いましょう。第一王子の病状は悪化しています。すでに第一夫人派は彼を捨て駒と認識している。彼が生きている間に、ザック殿も巻き添えにしてしまいたいというのが本音なのでしょう。法令により、そうなれば第三王子が王太子となる」
「そんな……」
「ザック殿を追い詰めるためのキーマンとなるのは、母親であるあなたと、ロザリー嬢です。ロザリー嬢に関してはまだ認識されていませんが、存在を知られれば真っ先に狙われるでしょう。アイザック殿が標的となっている今、あなた方にも平穏はありません。ここであれば私が信頼する警備がおけますし、あなた方もふたりでいれば互いに守り合うことができる」
カイラは、小さく震えながらも、ロザリーを見た。
どれほど小さな子供に見えているのか、ひどく心配されているようなのでロザリーも困ってしまう。
「……カイラ様。私、カイラ様に教えてほしいことがたくさんあります。髪の結い方や、お花のこととか。代わりに、私もお役に立ちたいんです。私が役に立てることって、嗅ぎ分けしかないんですけど」
カイラは戸惑ったそぶりを見せたが、やがて、顔をほころばせて頷いた。
「分かったわ。ふふ。私が誰かに頼みごとをされるなんて、いつぶりかしら。……ずっと、お荷物になっているんだと思っていたんだもの」
「母上は、お荷物などではありませんよ」
「……ありがとう、アイザック」
親子の間に久しぶりに穏やかな空気が流れた。