お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「つまり、俺に客寄せになれということだな」
はき捨てるように言ったザックに、後ろに控えていたケネスは低い声を出す。
「言いすぎだよ、ザック。それに、このままアンスバッハ侯爵に権力が集中してはまずいことくらい君にもわかるはずだ」
ケネスとザックの間に緊張した空気が流れることは珍しく、ロザリーは不安になってザックを見つめた。
「まあ、君が逃げ出すというなら止めはしないけどね。それまでの男だったということだろう」
更に追い打ちをかけるようにケネスがいい、今度はザックが黙り込む。ちらりとロザリーに視線を向けたケネスは、茶化すように囁いた。
「ロザリー嬢、そろそろ戻っていいよ。つまらない話に付き合わせて悪かったね。ザックはいまだ負け犬のままでいいらしい。ああ、分かっているだろうけど、このことは他言無用で……」
「待て」
ケネスの話を遮るのはザックだ。
「分かっている。戻ればいいんだろう。俺だって国は大事だ。民が困っているというなら放っておくわけにはいかない」
「そうそう。ロザリー嬢に格好悪いところを見せるわけにもいかないだろう?」
「うるさい、ケネス」
急に朗らかに戻った二人に、ロザリーはホッとした。やっぱりケネスとザックはこうでなくては。