お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「つまり、カイラ様は私の言うことは信じられるけれど、ザック様の言葉は信じられないとおっしゃってます?」

「あら? そういうことになるかしら。……でもそうね。あの子には私の手はもう必要ないでしょう。むしろ私がいるせいで、あの子が軽んじられる原因になってしまう。本当は邪魔なだけの母親なんじゃないかしらって思ってしまうのよ」

「違いますよ。証明できます、私。……初めて会ったときからずっと、ザック様は独特な香りがするんです。凄く近づかないと分からないくらい微かなんですが」

ロザリーはにこりと笑うと、カイラに向けて両手を伸ばした。

「その香り、カイラ様からもします。香っていたのは白檀の香木だったんです。一度ザック様が落として、届けたことがあります。そのとき、大事なものだと言っていました。母からもらったものだ……と」

「え?」

「ザック様は、カイラ様のことちゃんと思っています。元気になってほしくて、守れるようになりたくて、勉強も執務も頑張ってこられたんです。どうか信じてあげてください。ザック様は、カイラ様のことを、とても大切に思ってるんです」

カイラは半信半疑なようで、おびえたようなまなざしをロザリーに向ける。

「ザック様が甘えなくなってしまったのは、早くカイラ様を守れる大人になりたかったからですよ。カイラ様は寂しかったかもしれませんが、ザック様の気持ち、わかってあげて欲しいんです」

言うだけ言った。そう思ってロザリーは黙る。
カイラはぼんやりと歩き出し、クレマチスの花の前に立った。
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