お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「そうね。私、寂しかったのよね」
「カイラ様」
「アイザックはあんなに頑張っていたのに。……もっと喜んであげればよかったんだわ」
そこまで言ったときに、ようやく彼女の瞳に涙が盛り上がってくる。
「なんだ。嫌われてなかったの。……よかった」
「カイラ様」
ロザリーはおずおずと近づくと、彼女の腕にそっと手を乗せた。すると彼女の方から抱き着いてくる。
「ありがとう、ロザリーさん」
(……初めて愛称で呼んでもらえた)
ロザリーの肩にカイラの涙が落ちていく。
今は泣いてしまった方がすっきりするんじゃないかと思えて、ロザリーは慰めたりはしなかった。
「私も、カイラ様が元気になってくれたら、嬉しいです」
美辞麗句を並べることも、詩的な表現も得意ではない。できるのは、情けないくらい単調な言葉で気持ちを伝えることだけ。
だけどそんなロザリーだから、カイラも信じてくれるのかもしれない。
人の優しさは、時々ひどく回り道をする。だから伝えたい相手に上手に伝わらないことがあるのだろう。
子どもみたいな語彙力だからこそ、うまく伝わることもあるのだと、自分を慰めながら、ロザリーはカイラの気持ちが落ち着くまで、ずっとそばにいた。