お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


オルコット子爵邸は、貴族街の中でも平民街に近い場所にある。
その日、第二王子が来訪するということで、屋敷の中は浮足立っていた。

「鉱物の資料の確認に来るらしいの。あまりあなたを人前に出したくないんだけど、こればかりは私達では分からないから頼むわね」

「はい」

オードリーは生気のない声で頷いた。

この数ヵ月。オードリーはほぼ軟禁状態だった。家を出るならクリスを預かると言われ、目を離すと本気で引き離されそうで、怖くて外にも出れなかった。
そのうちに、レイモンドには結婚の断りの連絡を入れたと義父母に言われた。さらに、彼はそれを了承したとまで。
信じられない気持ちが半分、だが諦めも半分あった。
レイモンドには休むことのできない仕事がある。結婚にこんなに困難があるならば、結婚そのものを煩わしいと思ったとしても仕方がない。
納得しようと自分に言い聞かせつつ、オードリーはショックで気鬱になっていた。

「ママ、大丈夫?」

クリスも心配なのか、あまり母親の傍を離れない。
とはいえ、子供をずっと家の中に閉じ込めておくのはよくないので、天気のいい日は子爵家のメイドに外に連れ出してもらっている。クリスは必ず落ちている変わった色の石や、道端に咲いている花を摘んできては、お土産、と見せてくれる。
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