お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
オードリーは頷いて彼の後ろに並んだ。オルコット子爵家は男尊女卑の思考が強い。夫はその中ではまだ、先進的な考えを持っている方だったのだ。少なくとも、子供ができるまではオードリーを働かせてくれたのだから。
「第二王子、アイザック様のお越しです」
頭を下げたまま一行を迎えいれる。王子と義父の間で挨拶が交わされる間に、ゆっくりと顔を上げたオードリーは、見知った顔に思わず息を飲んだ。
第二王子と言われた男性は、イートン伯爵領で会ったザックという男性だった。そしてその傍に仕えているケネスとロザリー。
ケネスの目配せに、知り合いだと言わない方がいい気がして、オードリーは黙って後ろに控えていた。
「書庫は息子の嫁がご案内しましょう」
「オードリー・オルコットと申します」
さも初めての対面のように挨拶をする。
「ケネス……様ですわよね。イートン伯爵の。私、イートン伯爵領の出身なのです」
「ほう、これは素晴らしいご縁ですね」
空々しく交わされるケネスとの会話に、オードリーは笑いそうになるのをこらえるのに必死だ。
それにしても、まさか本当に第二王子アイザック様が“ザック”だったとは。それに、なぜロザリーが今この王都に居るのか。分からないことだらけだ。