お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「では積もる話は伯爵邸でしよう」

いつの間にか、ケネスが場を仕切っている。
扉を開けて出ていくので、ロザリーはどうしたらいいか迷っていたが、とりあえず全員が部屋を出るのを見送ってから出ようと戸口に立った。

「ロザリー」

ザックはそんな彼女の頭をポンと撫でる。

「仕事が終わる頃、迎えに来る。少し話があるんだ」

「は、はい!」

緑色の瞳に見つめられて、ロザリーの心臓はぴょんぴょん跳ねる。彼が王子様だと知っても、失くすことのできない気持ち。ザックは受け入れてくれたけれど、彼がこのままイートン伯爵家でのんびり過ごすわけにはいかないことはロザリーにも分かっていた。

(王都に戻ったら、私のことなんて忘れてしまうかな)

彼の優しい手を信じたい。くれた言葉は永遠に続くものだとロザリーは思っていた。
けれど、何事にも期日はあるのだ。
ザックが、いつまでもアイビーヒルで休んではいられないように。

そう思うと切なくて、ロザリーはその後、仕事に集中できなかった。
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