お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「なんだこれは」

取り合げてみて、息を飲む。

「……これは、……念書?」

『情報提供料として、売り上げの一部を要求する』といった内容が書かれた書類の下には、オルコット教授の名とウィストン伯爵の名が記され、血判が押されていた。

「オードリー殿、これは」

「え?」

確認したオードリーは、真っ青になって首を振った。

「まさか。……たしかに夫とウィストン伯爵は学生時代からの友人でした。一時期は造幣局から仕事を受けたこともあったようでしたが。……そういえば、そのころ、少し羽振りがよくなりましたね。子爵家はもともと裕福ですが、義父たちは夫の研究にお金を出すことはあまり好んでいませんでしたので、研究費はかつかつだったのです。それが事故に遭う直前は、多くの学術誌を買い込んだり、少し様子がおかしかったように思います」

といっても、それも今疑問を投げかけられたから言えることだ。
この頃のオードリーは、初めての子育てに頭がいっぱいで、あまり夫の話を聞いていなかった。

「亡くなる前……と言うといつぐらいだ?」

「クリスが一歳になる頃ですから、……四年前ですね」

ザックは口もとに手を当て、考える仕草をした。

「ウィストン伯爵が造幣局局長になったのは五年前……そのあたりから組んで仕事をしていたとしたら……」

この念書に書かれている日付は、五年前のものだ。
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