お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
鉱物の専門家であるオルコット教授は、おそらく毒のもととなる鉱物を持っていた。その情報と現物を利益と交換したとしたら?
ウィストン伯爵はそれほど裕福ではないと聞いている。であればオルコット教授に渡す利益はどこから捻出するのか。毒の販売先か、もしくは……
「配合をごまかして金を得ていた、……とか」
これはあくまでザックの想像に過ぎない。けれど、金貨の配合率をごまかす動機として、可能性が出てきた。
「……持ち帰ってしっかり考えてみないと駄目だ。オードリー、この念書の存在は子爵家には知れていないんだな?」
「おそらく。このあたりの専門書は、私か夫しか読まないので」
「であれば、これは預かっていく。……一度、応接室へ戻ろうか。何事もなく無事に終わった印象を子爵につけておきたい」
そう言ってザックとケネスは頷きあう。
だが、ロザリーはクリスの気配がないことが気になっていた。
残り香はそこはかとなく残っているところを見ると、クリスは頻繁に書庫に出入りしているのだろうとは思う。
「オードリーさん、クリスさんはどこですか?」
「ああ、クリスは今日は義母と奥の部屋で過ごしているわ。失礼にならないように……と言う名目だけど、クリスが余計なことを言わないように……だと思う。子どもの口に戸は立てられないもの」
「元気では居るんですね? 私、心配でした。クリスさんは友達ですもん」
オードリーは、以前と変わらぬ素直なロザリーを眩しそうに見つめた。
「ありがとう。元気よ。私の心配をしてくれていて、あまり外には出れてないけれど。クリスもあなたに会いたがってたの」
また、オードリーの瞳からポロリと涙が落ちる。
「やだ、ごめんなさい。いい大人が……」
だが、こらえようとしてもとめどなく流れてくるようだ。
ずっと張っていた気が、レイモンドが待っていてくれると知って抜けてしまったのだろう。
オードリーはもう限界だ。