お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「ね、あの話本当かな。若奥様をウィストン伯爵に嫁がせるって話」
「本当みたいよ。旦那様、凄い金額の支度金を準備しているそうだもん。なんでもね。これはクリス様を家に留め置くための策略みたいよ。ウィストン伯爵には前妻との間に男児が二人いるらしくて、次男の方をクリス様の夫にして、子爵家を継がせるつもりみたい。女のクリス様に継承権はないけれど、義理とはいえ息子になる伯爵家の子を養子に取ればできるんですって」
「義理って言ったって、オードリー様と子爵家に血のつながりはないじゃないの」
「そこまでしてクリス様を手放したくないんでしょうよ」
なるほど。たしかに使用人は情報の宝庫だ。
「そういえば、そのクリス様にもおやつをもっていかないと。今日のは特別品らしいよ。第二王子に出すとっておきだって」
ふたりの使用人に動きがあった。
ロザリーは彼女らの動きに合わせて、そろりそろりと死角になるように微調整しながら隠れる。
まだ何事か話しながら菓子皿を持っていく使用人の行く方向を、息を殺して見つめた。
使用人たちは階段を上っていく。二階の向かって左側。三番目の部屋。
追いかけようと階段を数歩上ったところで、クリスの声が聞こえた。
「手を洗ってくるね」
足音とともに、クリスの香りが近づいてくる。
ロザリーの心臓がどきどきしてきた。