お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
だがクリスの目的地は二階にあるらしく、姿が見えるところまでは出てこない。
ロザリーは階段の手すりを腕でたたいた。真鍮製のそれは、ゴーンと鐘をついたときのような音を響かせる。

祈るような気持ちで二階を見つめていると、ひょこひょこと小さな足音が近づいてくる。

「だあれ?」

「……ク……」

クリスと、目があった。
彼女は自分が見ているものが信じられないというように瞬きをしていたが、ロザリーが手を振るとぱあっと顔を晴れ渡らせ、階段を駆け下りてきた。

「ロザ……」

ロザリーは彼女を迎えるべく、手を伸ばした。……が、続く声に、思わず手を戻した。

「クリス? どうしたの?」

姿を見せたのはオルコット夫人だ。彼女はロザリーを見つけると、少し声を尖らせる。

「あら? お客さまね。ダメよ、クリス。お邪魔しちゃ……」

クリスは体をびくつかせ、階段の途中で足を止めて、まるで助けを求めるようにロザリーを見た。

クリスを抱きしめてあげたい。これまでよく頑張っていたねって言ってあげたい。
だけど、ここでクリスとロザリーが知り合いだと知られれば、もろもろのつながりがばれ、今後オードリーを救い出すのに不都合なのは想像がついた。
すがるような瞳のクリスに、心の中でごめんなさいと謝り、ロザリーは泣く泣く嘘をついた。

「可愛らしいお嬢さんですね。お孫さんですか?」

クリスの動きが止まった。先ほどとは違って、傷ついた色を乗せた驚愕の表情でロザリーを見る。
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