お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「初めまして。私はロザリンドといいます。クリスさん……でよろしいですか?」
クリスは返事をしない。傷ついたように頬を膨らませている。
こんな小さい子に、事情があって知らない人のふりをしていることを説明もなしに理解してもらえるとは思えない。
クリスを傷つけてしまったことがロザリーにはつらかった。
返事をしないクリスに、オルコット夫人は慌てて近寄ってきて、「ほら、クリス。ご挨拶しなさい」と急き立てる。そして、ロザリーの顔を見ると、思い出したように頬に手を当てた。
「ロザリンド……さん? ……あら、あなたどこかで会ったことあるわね。……ああそうだ。夜会でイートン伯爵がお連れしていた方よね」
「はい。ご無沙汰しております」
「ケネス様はアイザック様の補佐官に戻ったそうね。それでついていらしたの?」
「それもありますが。私、今ディラン教授の助手をしておりまして」
正しい名目の方を説明すると、婦人は少しばかり不快感を示した。
「まあ、社交界デビューしたあなたがお仕事を? 職業婦人などそんなにいいものじゃありませんわ。せっかくイートン伯爵といういい後ろ盾を得たんですから、仕事よりも嫁入り先を捜したほうが良くてよ」
「はあ」
どうやら子爵夫人は結構な前時代的な考えの持ち主らしい。
ちらりとクリスを見ると、不満そうに頬を膨らませている。