お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


ザックは、途中から元気をなくしたロザリーのことがずっと気になっていた。
本来馬車は、まずロザリーを下ろしそれからディラン先生を下ろして王城に戻る予定だったが、急遽変更し、まずディラン先生を家まで送り届け、その後全員で離宮へと向かう。

「なにがあった? ロザリー」

うつむいたままのロザリーの変化に、誰もが気付いている。
心配顔のカイラに一室を借り、人払いしたところで、ようやくザックは問いだした。

「クリスさんと会ったんです。でもちゃんと話をする前にオルコット夫人に見つかって。……私、クリスさんと初めて会ったふりをしました。夫人に、私達の関係を悟られては、今後の計画にも支障が出るんじゃないかと思って」

「正解だな。ケネスと君のつながりは彼女に知られている。不審に思われてアイビーヒルの調査をされては、レイモンドまでつながっていることがバレてしまうだろう」

「……でも、きっとクリスさんはそんなこと……何も分からないだろうから」

ロザリーは彼女の傷ついたまなざしを思い出した。
いつだって好奇心をいっぱいにして輝いていた瞳が、あの時ロザリーを見て失望の色を浮かべたのだ。

「きっと、……傷つけました」

とても心配だった。元気なクリスが寂しがってはいないかと、悲しがってはいないかと。
けれど実際に会って、傷つけてしまったのは他ならぬ自分だったのだ。
泣いてはいけないと思うけれど、涙があふれてくる。
それでもロザリーは堪えようと踏ん張ってみたが、ザックにそっと抱きしめられ、その頑張りは水泡に帰した。
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