お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


 客もはけてきた午後八時半。レイモンドは深く大きなため息をつく。

「どうしたんですか?」

ため息を聞き取ったロザリーはふわふわの髪を揺らしながらレイモンドに近寄った。
食堂は大方片付いていて、残った洗い物をレイモンドがすすいでいる。
チェルシーとランディは先ほど「お先に」と宿を出て行ったところだ。
宿の客は、時折風呂に行く人間が出入りするくらいで、基本は自らの部屋にこもっている。
レイモンドはきょろきょろとあたりを見回し、ロザリー以外に人がいないのを確認すると、気恥ずかしそうに目をそらした。

「オードリーからの連絡が途絶えていてな」

オードリーはレイモンドの年上の幼馴染だ。
レイモンドは子供のころから彼女に恋愛感情を持っていたが、彼女は自身の上司である学者と結婚した。
が、夫は四年前に事故死。今は五歳の子供を持つ未亡人なのだ。

前回のオードリーの里帰り中に、レイモンドは長年の恋心を実らせた。
とはいえ、オードリーは世話になった亡き夫の両親に報告なしにここで暮らすわけにはいかないと、一度王都に帰って行ったのだ。

その後、手紙が一度来た。
内容は、夫の両親が反対していて、すぐに家を出ることは難しいとのことだった。
レイモンドはそれに対し、信じて待っていると返事をした。……が、そこからひと月ほど経っても返信が無いのだ。
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