お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「……うっ、す、すみません。私」
「ロザリーとクリスは友達だったもんな」
彼の声音が優しかったから、ロザリーの涙腺はますます緩んでくる。
「クリスさんを元気にしたかったのに。かえって傷つけてしまいました」
「うん。だが、それが本心じゃないことくらいは、クリスだってわかってくれる。ロザリーは間違ってない。俺たちにできることは早く彼女たちを救い出してやることだ」
前向きな言葉に泣きながらすがっていたら、控えめなノックの音がした。
「大丈夫なの? あらアイザック、どうしてあなた、ロザリーさんを泣かせているの」
「母上」
「あまり長い時間、恋人たちをふたりきりにするわけにはいきませんよ。あなた方は婚約者というわけではないんですから」
本来、未婚の令嬢が男性とふたりきりになることは許されていない。
カイラとしては、十分ほどふたりきりにしてあげただけでも譲歩したつもりなのだ。
「母上はすっかりロザリーの保護者だな」
ザックは名残惜しそうに緩慢な動作で手を離すと、苦笑した。
「わたくしたちはお友達よ。ね?」
「はい!」
カイラの穏やかな微笑みに、ロザリーも元気よく返す。
実母と恋人が仲が良いのはザックにとって幸運なことだが、程度にもよる。自分の方がないがしろにされているようで時たま切ない。