お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「ロザリーは誰とでも友達になるんだな。……まあいい。少しは元気になったというなら、それで構わない」
「はい。すみません。取り乱してしまって」
「とりあえず不穏な念書が出てきたことで、調査のとっかかりは掴めたと思う。しばらくは忙しくなるから来れないかもしれないが、ロザリーは母上を守ってやってくれ」
「守られているのは私の方かもしれないですよ」
「お互い様というやつね」
ロザリーとカイラが笑いあっていると、ザックはおもむろに胸元から香木を取り出した。
「あと、これを君に預けておく」
「白檀の香木ですね? でも、どうして? これはザック様の大事な……」
「大事だから、ロザリーに預けておくと言っているんだ。まあ、この離宮にはこんな香りのものは多くあるだろうが」
ロザリーは手の中にポンと置かれた小さな香木を嗅いでみる。
カイラからもする香りだが、ザックはずっとつけているせいか、この香木からは白檀の香り以外にザックの香りがする。まあ、ロザリーでなければ分からないほど、微かなものだが。
「持っててくれ。その……」
急に言いよどんだザックは、思い出したように、静かにたたずんでいた母親に視線を向ける。
(さすが元使用人。たまにふっと存在感を消すんだよな、この人)
「すみません。母上。息子からのお願いを聞いてくださいませんか?」
「いいわよ。何?」
「……あと五分でいいから。ふたりきりにさせてください」
耳のあたりまで赤く染めた息子の姿に、カイラは楽しそうに笑う。
「いいわよ。五分だけね」