お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
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一方、ザックは、城の執務室で書類に目を通しながら、ふとケネスに問いかけた。
「ところでレイモンドの様子はどうだ?」
「あー。とりあえずオードリー殿の手紙で少し復活してたかな。あと、クリスを心配していたな。人がいいって言うか……あれはいい父親になるね」
自分との子どもではないクリスに、あそこまで愛情をかけられるレイモンドの心情は、正直ザックには分からない。
ザックは侍女から取り立てられる程の寵妃であったカイラとの息子だ。それでも、実の父親である国王から愛情を受けた覚えはない。
父が愛情を向けていたのは、第一王子バイロンだ。そしてバイロンが病に倒れた途端、自らも何か糸が切れたように腑抜けてしまった。
(俺が父親になったら、父上のようになるのだろうか)
ふと、脳裏をロザリーがかすめ、不埒な想像をあの純真無垢な少女にしてしまったことに軽く落ちこむ。
「ところで、……造幣局にあったアレが毒を生み出すものだと仮定して考えてみたんだ」
ザックは気分を変えるように、これまで入手した情報を元に仮説を立ててみることにした。
「うん」
ケネスも書類仕事の手を止め、ザックの話を聞く体勢になる。
「入手経路はオルコット教授から。対価は金。硬貨製造の金属配合を変えれば金をピンハネすることは可能だから、ウィストン伯爵が毒物を欲しかった張本人だと仮定できる。……じゃあ、そうして入手した毒を彼はどうしたと思う?」
「まっとうに考えれば、使うか売るかだね」
「そうだよな。だが、王国警備隊に聞くとこの五年、毒物関係の事件は特段増えてはいないらしい」