お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「……へぇ? 君、そんな伝手持ってたのかい?」
「第二王子の権限はそれなりに使えるんだよ。特に今は兄上が病床で、父上もあまり政務に関わってこない。俺が積極的に動くことに、誰も異は唱えないんだ」
「アンスバッハ侯爵はなにも言ってこないのかい?」
「良くは思っていないだろうが、表立って動くなとは言えないだろう」
「それもそうか」
第三王子コンラッドはまだ学術院の学生だ。現在、政務に関われる王族は国王である父とザックしかいない。
建前として議会というものがある以上、仮にザックが勝手な行動をしたとしても、抑え込む手段は“議会の総意”を獲得するか、国王に直接諫めてもらうしかない。
そして、ザックは諫められる程、不穏な行動もしていない。
「まあ、その話はいい。とにかく、毒物を精製したとしても、使うなり高く売るなりするのでなければ意味がない。そしてウィストン伯爵に関していえば、使うという選択肢はないと思う」
「なぜ?」
断言したザックにケネスは肩眉を上げる。
「彼の身辺を調べてみたが、特に憎むべき対象がいないからだよ。両親と妻はすでに死んでいて、息子たちはパブリックスクールで、それなりに成績優秀だ。本人は造幣局の局長。特に頭角を現している若手がいるわけでもなく、最低五年は局長の入れ替わりはないだろうと言われている。貴族議員の資格も持っているが、彼は中立派だし、第一党であるアンスバッハ侯爵の派閥ともそれなりにいい距離間で付き合っている。なにもかもが順調で完璧だ。――後妻として、オードリー殿を娶る話まであるのだから」