お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「危険を冒してまで、毒を扱う必要はないということ?」
「そう。金が目的かとも思っていたんだが、子爵家から多額の持参金が入るという話だっただろう。それを踏まえれば、敢えて毒を扱う危険を冒す必要はないと思うんだ」
敵の全貌も目的も見えないのは厄介なところだ。
危険を避けるために、無駄に警戒をしなければならず、かかる労力も半端ない。
だがケネスは納得しかねる様子だ。
「……でもさ。毒物騒ぎならあったじゃないか。他ならぬ、君にさ」
「は?」
そういえば、とザックは思い出す。
第一王子バイロンからもらった菓子に紛れた毒。
自分を踏み台にしてでもお前を蹴落としたいらしい、と乾いた声で言った兄。
王族であり、身分の低い母親をもつザックは、幼少期から常に命を狙われる危険にはさらされていた。
毒を盛られること自体に、そこまでショックは受けてはいないし、死ななかったのだからよしと思ってすっかり忘れ果てていた。
「待てよ。だとすれば毒を使用したのは限られてくる」
「そうだね。まあ俺としては最初からそこが怪しいとは思っていたけれど」
「……アンスバッハ侯爵か?」
ザックとケネスは顔を見合わせ、ごくりと生唾を飲み込んだ。