お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「説得に難航しているなら、オードリーひとりに任せるのも違う気がしてな。俺も王都に行こうかな」
「はあ、でもお店はどうするんです?」
「親を呼び戻そうかと思ってる。大分ばあさんの調子も良くなったようだし、いっそ介護が必要な人間ごと連れてきてしまえばいいと思うんだ。宿なんだから部屋はある」
レイモンドの両親は、母の両親を介護するために隣町に行っているのだ。
ずいぶんと強気な発想をし始めたレイモンドに、ロザリーは驚いてしまう。
「……レイモンドさん、オードリーさんに会いたいんですね」
クスリと笑って言ってみたら図星だったようだ。耳のあたりを赤く染めて、レイモンドは嫌そうな顔でロザリーを見つめる。
「そりゃそうだろ。……せっかく気持ちが手に入ったんだ。傍にいてほしいだろうが」
「そうですよね」
普段、淡々と厨房仕事をこなしていくレイモンドの照れた顔は新鮮だ。十以上年齢が上のひとでも、そんな風に思うんだなと思うと少しほっとした。
好きな人には、傍にいてほしい。
それは誰もが持つ感情だ。ロザリーとて例外ではない。だから、ザックが王都に行くというのなら、それが必要だと分かっていてもやはり寂しい。