お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。



 午後、侍女に見舞いの花を用意させ、ザックは第一王子バイロンのもとを訪れた。

「兄上、ご無沙汰しております」

「……アイザックか。お前の神経はどうなっているんだ? よく俺のところに来ようなどと思う……ごほっ」

病床の兄は、相変わらず顔色が悪い。
とげとげした物言いも相変わらずだが、以前より精彩に欠ける感じがするのは、やはり体調が悪いからだろうか。

「必要な警戒をすればいいだけですからね。打ってくる手が分かれば、別に怖いことはありません」

「俺ではお前にかなわないと? 相変わらず生意気な弟だ」

吐き捨てるようにそう言い、バイロンは自ら半身を起こす。そして、なぜか彼は、部屋に控えていた侍女に出るように命じた。

「わざわざ来るところを見れば話があるのだろう」

扉の前に衛兵はついているが、小声で話せば聞こえない。
敢えて話やすい状況を作ってくれるのは、兄が――もうすべて諦めているからなのだろうか。

「助かります。ざっくばらんに話したかったのですよ。……単刀直入に聞きます。以前の毒入りの菓子は、誰の差し金ですか?」

バイロンは探るようにザックを見つめる。よどんだような瞳をゆっくり彼に向けた。

「聞いてどうする。不問にするつもりで、黙っていたのではなかったのか?」

「毒物の入手経路に見当がついたんです。その人物と王家筋との関連を確かめているところです」

そもそも、バイロンが口にできるものに手を加えられる人物は少ない。
バイロンは困り切ったように目を伏せた。
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