お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「なにがお前を変えた?」
バイロンはゆっくりと問いかけた。
(……兄上は、こんな風に笑う方だったんだな。俺は、……ずっと見誤っていたのかもしれない)
誰にでも、個人を形作る芯のようなものがある。
兄はこの国を愛していた。それこそ小さな頃から。王太子として国の未来を良くしようと努力していた。
アイザックよりもコンラッドよりも、その点に関して誰よりも国王に向いていた存在だったのだ。
(だからきっと。……父上も兄上に期待していたんだ)
「……好きな人ができたんです」
「いきなりそこか?」
若干期待外れの返答をしてしまったようだ。ずっこけた様子の兄など初めて見る。
「その人は誰とでも仲良くなって。たくさんできた友人のひとりでも悲しむと、辛そうなんです」
ザックはぽつりぽつりと続ける。
声に出して話すことで、自分の心の内もまとまっていく気がした。
「俺は彼女に笑っていてほしくて。だからこの国を平和で病むことのない場所にしたい。平民も幸せに暮らせるような、そんな国に」
「女のためか」
「……いけませんか」
吐き捨てるように笑ったバイロンだったが、その表情は優しかった。
「ベストではないが、悪くはない。……少なくとも以前のお前よりはな」
そして、長兄はおもむろに布団に体を沈める。