お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「兄上、疲れさせてしまいましたか?」

「そうだな。俺は寝る。……だから、これから話すことは寝言だ」

秘密を打ち明けよう、と暗に言っているのだ。
ザックは信じられない思いで、目の前の兄を見つめる。

「あにう……」

「先に言っておくが、父上はお前を愛していないわけじゃない。守るために、冷たくせざるを得なかっただけだ」

「え?」

「権力に固執した男は、まず妹を王太子の婚約者にした。やがて国王夫妻が死に、若くして王となった男に早く結婚をと勧め、縁戚という立場を手に入れたのだ。若い国王に、頼れるのは妻の親族しかいなかった。幸い、妻は男児を生むことで自分の務めを果たてくれたし、王は政務に情熱を注ぐことで国を守ろうとしていた。……妻の兄の、掌の上でな」

それはまさに今の国王夫妻の関係性だ。
だとすれな、権力に固執した男とはアンスバッハ侯爵ということになる。

「だが、王が政務を理解し、自分の意思を押し出していこうとすると、義理の兄はやんわりとそれを退ける。相談したことは、いつの間にか議会に手をまわされ、貴族議員の総意として却下された。国王は、監視に近い男との関係に疲れていた。当然、男の妹である妻の前でも気は抜けない。それで、心安らげる別の女を見つけたのだ」

それがカイラ妃。
国王の身の回りの世話をしていた侍女。
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