お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「その彼女が妊娠したことで、王は第二夫人にと望んだ。それ以降、第二妃は、流産を狙ったかのようなおかしな事件に何度も巻き込まれたそうだよ。それこそ、毒が仕込まれたこともあっただろう」
様々な嫌がらせをされた、とザックは聞いている。
それゆえに、カイラはイートン伯爵領へ送られたのだ、と。
「だが王にとって、男は恩人でもある。父王が急逝し、なにもかも手探りなまま王となってしまった彼にとっては、国政が落ち着くまでの数年間、男がいなければとてもやってこれなかった。第一夫人との間にあったのは、愛よりは義務だったかもしれない。だがたしかに、その当時の王にはなくてはならないものだった。第二夫人に渡せるのは愛だけ。ならば、国は第一夫人との子に渡そうと、……そう、王は思っていたんだよ」
三人いる息子の中で、国を継ぐべきはお前だ、と。
周囲にも分かりやすく、王はバイロンを優遇してきた。
「王は心のよりどころを求めて、第二夫人を傍に置いた。けれど、第二夫人は第一夫人からの嫌がらせに心を病んだ。それに満足すると第一夫人は第二夫人の息子を標的にし始めた。それをかばうことは、……王にはできなかったんだ」
おそらく、と彼は目をつぶったまま続ける。
「王にとっては、第一王子を正しく国王へ導きさせすれば、まとまる話だと思っていただろう。第二夫人には愛を。妻には国を継ぐ息子を。独りよがりな考えだったかもしれないが、彼はそうやって渡すものを分配したつもりだったのだ。しかし、第一王子は病魔に倒れる。核にしていたものが根元から崩れ去り、王はすっかり国政への意欲を失ってしまったのさ」