お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「証言までは取れなかったが、菓子に毒を仕込んだのはおそらくアンスバッハ侯爵で間違いないだろう。多分、どう転がっても良かったんだ。俺が死ねば犯人は兄上に、兄上が死ねば犯人を俺に仕立て上げるつもりだったんだろう。どちらにせよ、残るのは第三王子。傀儡の王として最も適している」
「うわあ、腹黒いねぇ」
「だが、お前のおかげで毒の被害には遭わなかった。そしてこれは予想外だったが、兄上とも少し腹を割って話せるようになった」
ザックがバイロンとの会話について簡単にケネスに話すと、ケネスは眉を寄せたまま、「ふむ」とつぶやいた。
「あのバイロン様がそこまでお考えだったとはね。病床にいたった今だからこそ、すべてを明かしてくれたというわけか」
「そうだろうな。兄上にとってはアンスバッハ侯爵は伯父で貴重な支援者だ。あの毒菓子が亀裂になったんだろうが、伯父を陥れるのは心が痛むはずだ」
だが、ザックだってこのまま殺されるわけにはいかない。
不正硬貨の乱造を止め、毒の製造と使用の証拠を突き止め、アンスバッハ侯爵とウィストン伯爵を捕縛しなければいけない。
「君がなんとなく正解に向かっていることは、あっちも気づいているだろう。ますます、君は彼にとって殺したい男となったわけだ。さて、焦ってぼろを出すか、逆に慎重になるか。……どちらに転ぶか分からないけど、こっちだって待ってばかりいるのはつまらないよね」
ケネスがにやりと笑う。
悪いことを企んでいるときの顔だ。
「何か手が?」
「いつ毒が使われるのか、待っているのも気が気じゃないだろう? ひとつおもしろいことを思いついたんだよ。ぜひ提案させていただきたいね」
「おもしろいこと?」
「そう。君を殺害するのにふさわしい好機を、まずは作り出すんだよ」