お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
(う、嘘……どうしよう)
予想外すぎた人物の登場に、ロザリーは固まった。何せばっちり目は合ってしまっている。
今更見なかったことにはできない。
(いやだって、陛下お忍び? ていうか、陛下とカイラ様、最近はうまくいってないんじゃなかったんですかー?)
脂汗がダラダラ出てくる。陛下は陛下でなにも言わずにじっとロザリーを見ていた。
その背中から聞こえた声に、ロザリーは心底救われた気持ちになる。
「陛下、急にどうされたんですか」
後を追ってきたウィンズだ。彼は、窓際で小さく身を隠しているロザリーに気づき、目を丸くした。
「ろ、ロザリンド嬢? どうしてこんな時間に」
「こ、こんにち……あ、おはようございます、ですね。ウィンズさん」
今は挨拶などどうでもいいのだが、頭がパニックになっているので変なところが気になってしまう。
「そなたが噂の令嬢だな。カイラが世話になっているそうだな。ああ、アイザックもだったか?」
予想外に、ナサニエル陛下は朗らかに話しかけてくる。ロザリーは目が回りそうだ。
(何を言えばいいのか、まず謝るべき? いやでも悪いことなんて。あっ、立ち聞きは悪いことか。でもでも……)
沈黙に耐え兼ねたのか、ウィンズが間に入ってくれた。
「陛下。ロザリンド嬢が固まってますよ」
「む……。人懐っこい令嬢だという話じゃなかったのか」
「たしかにアイザック王子にもカイラ様にも物おじせず話せる令嬢ではありますが、さすがに陛下となるとこの反応で普通じゃありませんかね」
苦笑しながらウィンズが言うのを、部屋の中から呆然と見ていると、部屋の扉が勢いよく空いた。
ランプを持って入ってきたのは、カイラの侍女だ。
「まあ、ロザリー様。ご令嬢がこんな夜中に出歩いてはなりませんよ」
「あの、あの……」
「皆様、中にお入りください。お茶の準備をいたしますわ。国王様の御戯れもばれてしまったようですし」
ロザリーはここでようやく落ち着いて息を吸い込んだ。
そのときに嗅いだ陛下の香りに、ああこれまでもこの人だったのだ、と気が付いたのだ。