お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
白磁のカップに香り豊かな紅茶が注がれる。
ここは王家の離宮で、陛下がお忍びで来ていても何の問題もないし、お茶会を始めるのも問題ない。これが早朝五時であるということを除けば。
「改めまして、ロザリンド・ルイスと申します。陛下に置かれましては、ご機嫌麗しく……」
「ああ堅苦しい挨拶はいい。それに、あまりうるさくするとカイラが起きてしまう」
「カイラ様にはお会いにならないんですか?」
「私はもう嫌われているからな。顔を見せても病を悪化させるだけだ」
ナサニエル・ボールドウィン国王陛下は、御年四十五。逞しい体躯の持ち主で、金色の髪をもつ。
ザックは母親似のようで、そこまで印象は近くないが、綺麗な緑色の瞳は一緒だ。
ロザリーはデビュタントのときに挨拶をしただけだが、そのときはもっと威圧的な印象を受けていた。今はどちらかといえば、祖父に近しい印象を抱いている。一見威厳があるようだけれど、普段は優しい祖父と。
(懐かしいな。おじい様、元気かしら)
ふいに思考が祖父のもとへと飛んでいく。
加齢臭が酷かったな、なんてひどいことを思い出していると妙に切なくなってくる。
「君が」とナサニエルに声をかけられて、ロザリーはハッとした。
「君がきてから、カイラの調子がいいと聞いている。彼女になにか言ったのか?」
「いえ。……あ、えっと」
「かしこまらなくていい。今はお忍びだからな」
「……お忍び、よくされるんですか?」
気になっていたことを、聞いてみる。
ナサニエルは、脇に立つウィンズにちらりと目配せして、苦笑した。