お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「陛下」
「帰る。……私が来たことはカイラにもアイザックにも言わないように。言ったら……どうなるかわかるな?」
まるで脅しのような声だ。なまじ威厳のある風体をしているから、余計迫力があり、ロザリーの全身がびくりと震えた。
「わ……分かりました」
その様子に、ナサニエルはふっと目尻を細める。
「もう一度寝るといい。夜が明けきる前にな」
立ち上がり、背中を見せて歩き出す。怒らせたのかもとも思ったが、最後の声は優しかった。
陛下の考えが分からない……と思いながら、ロザリーはうつむいたまま彼が出ていくのを待った。
パタン、と扉が閉まる音に、ようやく緊張が解け、テーブルに身をつっぷす。
「……き、緊張した」
「その割には、しっかり言いたいことをおっしゃっていたじゃないですか」
さらりと言ってのけるのはカイラの侍女だ。彼女は普段は鉄面皮のように表情が動かないが、今日ばかりは微笑んでいた。
「お疲れさまでした」
彼女にゆっくりと肩を揉まれ、へにゃりと力が抜けてくる。
「ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらですわ。……本当は私も、陛下にカイラ様に会っていただきたいんです。あの方は、本当にカイラ様を大切に思ってらっしゃるのだもの」
「そうですね」
だけど、彼は会うつもりはないのだろう。
人の噂では、陛下とカイラ妃の仲はすっかり冷え切っていると言われている。
それも、カイラ妃を守るためなのだとしたら。
(やっぱり、すっごく不器用な気がする)