お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
『お前、オルコット子爵のご令息?』
『へ? うええっ、王妃様っ』
今初めて存在に気づいたというように、ジェイコブ・オルコットは直立した。
『勤勉ね。専門は何?』
『こ、鉱物学です。ご存知ですか、王妃様。あなたの白い肌を彩るその宝石たちは、元はこのような岩石の塊だったのです』
空気を読まず自分のテリトリーに連れ込もうとするその強引な話術。
なるほど、オルコット子爵が『もう少し貴族の嫡男としての自覚を持ってほしい』とため息交じりに言っていたのも頷ける。まさに鉱物馬鹿、である。
『そう。では、今度私に宝石の話を教えてちょうだい。サロンを開くわ。そこにお前も招待しましょう』
『へ』
ジェイコブは、思いもかけない展開に言葉もない様子だった。
その後、サロンと称して親しい友人を呼び、宝石についての話をさせた。
『本当に宝石は美しいわね。でも、美しいものには棘があると言います。そんな表裏一体な話はないの?』
『そうですね。こんなのはどうでしょう。例えば銀。銀はヒ素と反応し変色するので、食器の飾りによく用いられます。ところがあるところで、銀器を使った王族がこぞって変死する事件があったのです。そうして調べてみるとなんと……』
『なんと?』
集まった女人たちが、息を飲んでジェイコブを見つめる。
ジェイコブは楽しそうに続けた。
『それは銀ではなく、輝安鉱と呼ばれるものだったのです。銀はそのもので存在することはあまりありません。化合物として存在するのが常です。そのため、銀と間違えて使用されてしまったんですね』
女たちは恐ろしさに悲鳴を上げ、扇で口元を覆った。
マデリンもだ。
しかし彼女の場合は、口もとの笑みを隠すためだが。