お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「そんな顔するなよ」
ザックの手が顎にかかり顔を上げさせられる。
泣かないようにと踏ん張ると、どうしても睨むような顔になってしまった。
「そんな……すぐなんですか」
「まあ、ここに来て一年以上経つ。十分のんびりさせてもらった」
ザックはふにふにとロザリーの頬を軽くつねる。優しい手つきに涙腺が決壊しそうだ。
思わずふっと自分から離れた。
「ロザリー」
「はい」
「できるだけ早く戻ってくる。だから待っててくれないか」
待つとはどういう意味で?
疑問に思った瞬間に、彼は左腕にロザリーのお尻をのせるようにして抱えあげた。
急に高くなる視界。うつむいていてもザックの顔がすぐ近くに見える。緑色の瞳がまっすぐにロザリーを見つめていて、見とれているうちに、唇をふさがれた。
「……ん」
いつまでたってもキスは慣れない。どう呼吸していいのかわからないし、離れてすぐに見えるザックの色っぽい視線に心臓が貫かれたような気分になってしまう。
いつもは照れたように視線を外す彼が、今日はまっすぐに見つめたまま、彼女の手を握った。