お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


厨房は、やはり戦場のようだった。
次々と出来上がる料理が、入れ替わり立ち代わり入ってくる給仕によって運ばれていく。

ロザリーとクリスは、邪魔にならないように壁に張り付くようにして厨房を覗き込んだ。
今日の料理はレイモンドに任せたというが、実際にレイモンドひとりで全員の食事を作れるはずはなく、彼が中心になって指示を出して、伯爵家の料理人全員で作っている。突然入ってきた新入りが仕切れば軋轢も起きそうなものだが、料理長までも積極的に動いているところを見ると、レイモンドはずいぶんうまくやっているのだろう。

ワゴンには、これから持っていくとりわけ用の皿が載せられていた。白磁の皿と銀の皿が用意されている。
銀器は毒に対して変色反応を起こすので、王族を招待したときなどに使われる。カトラリー類も、全てではないが銀製である。ザックは必ずこの銀器を使うことになっている。

「よし出来た。次はこれを運んで……」

大皿に盛られた料理を手に、レイモンドが一瞬こちらを向いた。扉の陰からぴょこりと飛び出しているふたつの頭を見て、驚いたように目を見開き、動きを止める。

「おいレイモンド?」

「悪い。少しだけ変わってくれ」

ロザリーの隣で、クリスが身じろぎをした。まっすぐこちらに向かってくるレイモンドを凝視しながら、ロザリーにしっかりとしがみつく。
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