お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「……クリス。クリスだろ?」

彼はふたりを入口から少しずれたところにまで誘導し、膝をついて、呆然としているクリスと視線を合わせた。

「俺だよ、レイモンドだよ。クリス、元気だったか?」

「レイ。……レイ!」

手を伸ばしたクリスを、当然のように受け止めて抱きしめたレイモンドに、クリスは渾身の力でしがみついた。

「心配してたんだぞ、クリス。手紙も届かなくてお前たちになにかあったんじゃないかって。オードリーは元気にしてるのか?」

「レイ。……ママは」

クリスの瞳には涙が盛り上がっている。でもこれは悲しみの涙ではなかった。

クリスは安心したのだ。
みんな頭上から怒ったりなだめたりしてくる中で、レイモンドだけはちゃんと目線を合わせてくれたこと。
オードリーだけじゃなくて、クリスのことも心配だと言ってくれたこと。
それが嬉しくて、心の中にため込んでいた思いが、堰を切ったようにあふれ出してくる。

「ママは、お家を出れないの。クリスがいるから。レイからの手紙が届かなくなって、毎日泣いているのに、クリスには笑ってくれるの。大丈夫よって。でも全然大丈夫じゃない。お願いレイ、ママを助けて」

「あたり前だろ。俺はオードリーを連れ帰るためにここに来たんだから」

レイモンドがにかっと笑って見せると、クリスはふいに不安そうな表情になる。

「……クリスも一緒に、助けてくれる? ……ママと離れたくないよ」

「クリス。そんな心配してたのか?」

「クリスさん……」

話しているうちにワンワンと泣き出したクリスは、たじろぐレイモンドの首にしっかりとしがみつく。

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