お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「だが今回のことで、議会ではアンスバッハ侯爵の株は上がっている。発言権も増し、今や彼の提言する政策ならば簡単に通ってしまうような状態だ。勢力地図を変えるには、第二王子の俺や第二党のバーナード侯爵派だけでは無理だろう。……味方に引き入れるべきは、父上だ」

「国王様か」

「ああ。父上がこちらに味方に付いてくれれば、優位に立つことができるだろう。だが、父上は俺には関心が無いからな。どこまでちゃんと話を聞いてくれるか……」

ザックが目を伏せ、悔しそうにため息をつく。
その姿に、ロザリーは思わず反射で答えていた。

「そんなことありませんっ……」

「ロザリー?」

「あ、いえ。その。……国王様はちゃんとカイラ様のこともザック様のことも考えていらっしゃいます」

「そんなわけないだろう。夢遊病で手に負えなくなった途端に母上を離宮に押し込めたんだぞ? その気がないならいっそ離縁してもらった方が母上だって気楽だろうに」

これまでどんな扱いを受けてきたのか、ザックにとっては国王への不信は根深そうだ。
ロザリーは困り果てて考える。国王はふたりに向けている愛情に気づかれたくはなさそうだった。

それはなぜか。
これはロザリーにも想像がつく。
寵愛を表に出すことで、彼らに害が及ぶのを恐れているのだ。
実際、カイラは離宮に閉じこもるようになってから、第一夫人からの嫌がらせは受けなくなったと言っているし、この離宮の外側が全く手入れされていないのも、陛下の寵が失われたと暗に匂わせるためだ。
カイラ本人にも気づかれないように、国王は愛を送る。
内庭を整え、彼女の気持ちが晴れやかであるように。
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