お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


 翌朝、ザックとケネスは出立の前に切り株亭に寄った。荷物は別に馬車で送り、ふたりは護衛とともに馬で移動する予定だ。普段の軽装に防寒具として毛皮のローブを着た状態だ。
ロザリーとレイモンドは、仕事を中断して見送りに出た。

「ケネス様も行ってしまうんですね」

「まあ僕は今、議員でもないんだけどね。王都に行ってやることがあるわけじゃないんだけど、ザックの力にはなれるかもしれないから。イートン伯爵家のタウンハウスが王都にあるから、君たちも機会があれば訪ねておいで」

ザックがいなくなることだけでも寂しくてたまらないのに、ケネスまでもと思ったら、ロザリーは言葉が出なくなる。
耳とおしりあたりがむず痒い。尻尾があったらぺたんと垂れているはずだ。
寂しいなんて言ってはいけないけれど、寂しい気持ちを上手に隠せるほど、ロザリーは大人じゃないのだ。

そんなロザリーを横目に、レイモンドは大人として寂しさを表に出さずに笑いかけた。

「毎日来てくださったケネス様がいなくなるのは寂しいですね。……っていうか経済的に打撃です」

「君の料理が食べられないのは本当に不満だよ。できればうちの料理人として連れて行きたかった」

「はは。切り株亭がつぶれたら雇ってくださいよ」

レイモンドとケネスは軽口をたたき合う脇で、ザックはロザリーをじっと見つめている。
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