お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
(黙ってるなんて……やっぱり無理。でも、陛下の気持ちを考えたら……)

「ロザリー、どうした?」

ザックがロザリーの髪をつんとつつく。
ハッと顔を上げて、ロザリーは彼の深い緑色の瞳に見入った。

行き詰まってしまったとき、指針にすればいいのは何だろう。
愛情か、忠誠心か、それとも……。

「ザック様」

「うん?」

気遣うように髪に触れる手からは、かすかに白檀の香りがする。
香木を預かっている今は、自分にもその香りが染みつきつつある。

(私が王都に来たのは、ザック様に会うためだ。……ザック様の助けになりたくて)

ロザリーはひとつの結論を出した。覚悟を固めるように小さく頷く。

「ザック様に、お願いがあります」

「なんだ? 改まって珍しいな」

そう言いつつ、ザックが顔はほころんでいた。彼にとっては、ロザリーに頼られるのはむしろ至福だ。

「今度、私と逢引きしてくださいませ」

「は? 逢引き……?」

飛び上がるように立ち上がったので、ザックの座っていた椅子が傾いた。
顔を真っ赤にしたザックと、ニヤニヤしたケネスが対照的で、ロザリーは思わず笑ってしまった。



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