お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「だが、母上にまで内緒にしてよかったんだろうか」

「念のためです。普段と様子が変わると困るので」

カイラにも内緒にするため、ふたりには出発前にちょっと寄ったという体で離宮に来てもらった。
そこから、ザックだけがカイラにも護衛にも気付かれずに残るためには、結構な苦労と侍女の協力があったのだが、なんとか成功した。

そんなわけで、ザックは夕方からずっとロザリーの部屋にずっと隠れているのである。

「ザック様、お食事持ってまいりましたよ」

「……ロザリー」

ランプの光が、彼を優しく照らす。とはいえ、人影が窓に映らないように、なるべく彼には家具の陰にいてもらっているし、明かり自体をいつもより少なくしているので、どうしても彼の周りは薄暗いのだが。

「すみません。ご不便かけて」

「いや、いいんだが。……ロザリー、俺はいいんだが、本当にいいのか? 結婚前の女性とこうしてふたりきりになるのは、結構問題になる気がするんだが。いや、俺は責任は取る気でいるが……」

妙にもじもじとされて、ロザリーはハタと思い当たる。
単純に夜に来る陛下をふたりで待とうという意味で呼んだのだが、陛下のことはギリギリまで内緒にしようと、濁したいい方しかしていない。

(もしかして、勘違いされてる……?)

途端に、ロザリーは今の状況に恥ずかしくなってきた。

意中の男性を呼びつけて、夜まで隠れていてください、なんて言って部屋に押し込んでいるのだ。
どう考えても襲ってくださいと言っているようなものだ。

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