お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「ち、違うんです。その、あのっ」
一気に真っ赤になり、首を横に振りまくるロザリーに、ザックは思わず噴き出した。
「いや、落ち着け。分かってる。俺だってまさかロザリーがそんなことを考えるとは……ちょっとは期待したが思ってない」
「よ、よかった……」
「なにか理由があるんだろうと思ってはいるが、母上にまで内緒となると、揉めるもとではないかと思ってな。今の離宮の主は母上なわけだし」
「それはそうなんですが……。カイラ様にお伝えするのが正しいのかまでは私も判断できないんです」
「そろそろ話してくれてもいいだろう? ロザリーは俺に一体何を見せようとしているんだ?」
薄暗がりの中、ザックの真剣な瞳がまっすぐにロザリーに向けられている。
ときめいている場合ではないが、急にふたりきりなことを意識してしまう。
「国王様のことです」
「父上のことか?」
「国王様は、カイラ様のことを今も愛していらっしゃいます。夢遊病の症状が出れば、様子を見にいらっしゃるのですから」
ザックは瞬きをした。そして真っ先に『誰のことを言っているんだ?』と思う。それは、城で見る父親の姿とは全く違うものだからだ。
カイラのことなど、ほとんど会話に出てこない。最近ザックが離宮に通うようになって、一度そのことを問いかけられたりはしたが、カイラの様子を心配するような言葉はなかった。