お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「まさか。父上は俺にも母上にももう関心がない」
「そう周りに思わせないと、カイラ様が危険だと思っているからです。ザック様はお気づきにならなかったですか? この屋敷が、外から見るのと中から見るので、ずいぶん印象が違うことを」
ザックはハッとした。そしてふと、兄との会話を思い出す。
父が母を愛しながらも、第一夫人を切り捨てられなかった理由を。
「内庭を整えにいらっしゃっているのです。カイラ様が花が好きだと、知っておられるから。それも、人に知られないような真夜中に。私は今日、それをザック様にお見せしようと思って、呼び出したんです」
信じられないようにザックが窓の方を見やる。
「ザック様がいることを知ったら陛下が隠れてしまうかもしれないので、ザック様の食事を終えたら明かりを消します。カイラ様の侍女にはすべて話してご協力いただいていますから、ご安心なさってください」
「安心していられるか。父上ががお忍びで離宮を訪れているなど、全然知らなかったぞ。王城の警備兵をどうやって誤魔化してるんだ」
「そこは私にも分かりません。協力者は何人かいらっしゃるんだと思います。私も詳しくは知りませんが、細心の注意は払われてるということなんでしょう」
たったひとりの女のためにそれをしているのだと知れば、人はなんというだろう。
“異国の血の混じった侍女におぼれた愚かな王”
“王子を生んだ高貴なる第一王妃を軽んじる行為”
それは、ザックが子供のときから聞かされてきた父親への批判の声だ。