お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
パチパチパチ、と手を叩く音が響く。
驚いて振り返ると、ライザが涙ぐみながら手を叩いていた。
「ライザさん?」
「さすがお嬢様。私はずっとそう思っていましたとも」
感慨深げに頷くライザに、ロザリーは慌てて「物音立てたら、みんなに気づかれますよう!」という。しかし、もともとロザリーの声は甲高い。
静まり返った深夜の屋敷にそれが響かないわけはなく、当然のように内庭の陛下たちには気づかれてしまった。
またロザリーが見ていたのかと、あきれた様子で待ち構えていたナサニエルは、そこに息子の姿を認めて驚きに目をしばたかせた。
「アイザック……!」
「父上」
国王が一瞬、後ずさる。視界の端でウィンズが頭を抱えている。
「ウィンズ、お前か?」
「違いますよ! 濡れ衣です」
「私です、陛下。申し訳ありません。処罰はいかようにも」
ロザリーが前に出て頭を下げると、ナサニエルは降参だとでも言うように天を仰いだ。
「……カイラのお気に入りである君を、私が罰せるはずないと分かっての行動か?」
叱責が飛んでくるかと思っていたのに、国王の声は、諦めたように力が無かった。
「えっ? そんなことは考えてませんでした。っていうか、陛下なら誰でも罰せられるじゃないですか」
「立場上はな。だができん。君はカイラを救ってくれた恩人だ。あれがまた笑うようになったと聞いて、私がどれほど君に感謝しているのか、知らなかったのか?」
国王とロザリーのやり取りを聞いて、ザックはこれまでのロザリーの言葉が、途端に腑に落ちてきた。
同時に、お腹の底から笑いが込み上げてくる。
あんなに憎んだのは何だったのだろう。