お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「は、ははっ」
「……何を笑っているんだ、アイザック」
息子には威厳を保ちたいのか、国王はザックを睨み、努めて低い声をだす。けれどそれも、やっていることがバレてしまってからではあまり効果がない。
「だって。おかしいでしょう。俺はずっと、あなたを情のない冷たい人だと思っていたのに」
本人にさえ気づかれないような愛情表現に満足して、閉じ込めたふりをして守り続ける。
酷い自己満足だ。けれど、愛はある。
それはあまりに分かりづらく、ザックがひとりでは見つけられなかったものだが。
「父上は、母上を愛しておられないわけではなかったんですね」
「あたり前だ。……お前のことだって……」
そこまで言って、国王は喉を詰まらせる。立場が、彼から愛情表現を奪い取っていった。
そして一度手放したものを、今更上手に表現できるほど、彼は器用ではなかったのだ。
「……頼みがあるんです」
ザックとて、ずっと愛されていないと思った父親に急に抱き着けるほど器用ではない。
「なんだ?」
「俺はアンスバッハ侯爵の勢力を削ぎたいんです。今回、オルコット伯爵が犯人だとされた一連の事件が、彼の単独犯とは思えない。絶対に裏に誰かがいる。俺はそれが、侯爵だと思っています。今のままではこの国は事実上侯爵に乗っ取られているようなものです。彼が不正に加担した証拠を探し、弾劾したい。そのために、父上にも協力してほしいのです」