お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
ナサニエルは、まっすぐ語るザックを瞬きをして見つめなおした。
自分の息子が、別人のように見えたのだ。
ずっと反発心が先に立っているだけで、才能はあれど覇気はない。そう思っていた息子の変化に驚きを隠せない。

「不正を正して、どうする? 今やアンスバッハ侯爵がいなければ、この国は回らないとまで言われている。国のことを想えば、彼に一任するのも手ではないかと私は考えているんだ」

「彼が、国民のことを想ってそうしているのならば、俺もこんなことは言いません。だが、実際ここ数年、民の不満は増えている。増して他国からの信用を失うようなことは、国のことを想っている人間がやってはいけない行為です。アンスバッハ侯爵の求めているものは、権力と財。そう感じるから、俺は彼を止めたいと思う」

ザックの中に、彼に唯一足りないと思われていた愛国心が生まれている。それに国王は驚いた。
そしておそらくその変化は、ここにいる小さな少女がもたらしたのだ。

「……分かった。協力しよう」

ナサニエルが頷いた瞬間、屋敷の中に明かりがともった。

それは二階の窓だ。

「カイラ様のお部屋ですね」

ロザリーの声に、みんながなんとなく顔を見合わせる。
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