お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
「物音で起きたか? それとも夢遊病の方か。ライザ、行ってやってくれ」
ライザは恭しく頭を下げ、向かおうと踵を返す。が、それを止めに入ったのはロザリーだ。
「待ってください。国王様も一緒に行きましょう? お願いです」
ロザリーの懇願に、ナサニエルは眉を顰める。
「駄目だ。途中で起きたらどうするんだ。今更……」
「カイラ様が、夢の中でしていることを知れば陛下も考えが変わります」
「……していること?」
それには、ザックも驚いて目を見張る。夢遊病とは、ただふらふらと意識のない状態で歩き回っていることだと思っていたからだ。
「ロザリー、母上は何かしているのか?」
ロザリーは真剣な顔で頷き、ザックの腕を掴んだ。
「カイラ様は陛下のお仕度をするのが楽しかったって言ってました。それを聞いてから、私気付いたんです。カイラ様はずっと夢の中で、陛下のお仕度をしているんだって」
髪を梳き、服を整え、マントを着せる。普通ならば無言で行われるそれは、恋愛感情を抱える者同士にとっては、密やかな恋を育てる時間だったのかもしれない。
「陛下がカイラ様を想っておられるなら、どうかお願いします。カイラ様の心の穴を埋められるのは、私じゃなくて陛下なんです」
「……部屋の鍵を貸せ」
ナサニエルはライザにそう言い、鍵をもらうとそのまま駆け出した。
ロザリーとザックも顔を見合わせて、少し遅れて後をついていく。